交通をクラウド化!移動がもっと便利になる「MaaS」とは?

「MaaS」という言葉をご存知だろうか。これは、移動手段をサービスとして提供することを意味しており、“モビリティ革命”とも言われている。これだけ聞くと「電車やバスなどの公共交通機関もサービスに入るのではないのだろうか」と思うかもしれない。なぜわざわざMaaSという言葉が生まれたのか、この言葉によって人々はどんな世界を実現させようとしているのだろうか。

2019.05.24 FRI

交通をクラウド化!移動がもっと便利になる「MaaS」とは?

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MaaSという言葉の意味

IaaS、PaaS、SaaS...このような言葉を一度は目にしたことがあるであろう。これらはすべてMaaSと同じく「○○ as a Service」の略なのだが、いずれも「クラウドサービスの提供形態」を意味する言葉である。(ちなみにIaaSは、Infrastructure as a Service 、PaaSは、Platform as a Service、SaaSは、Software as a Service。)

MaaSは「Mobility as a Service(モビリティ・アズ・ア・サービス)」の略で、マースと読む。

直訳すると「サービスとしてのモビリティ」で、移動のサービス化を意味する。

MaaSは移動手段の話である一方、IaaS・PaaS・SaaSはコンピューターの利用形態のことを指し、一見これらには何の関係があるのだろうか、と感じた方もいるかもしれない。一言でいえばMaaSとは、「社会が抱えている公共交通インフラの構造的な問題を、ICTクラウド技術を用いることで解決する試み」だと言える。

つまり、移動手段そのものをクラウドサービスとして提供しよう、というアイデアなのだ。

現在、タクシーやバス、飛行機などの複数の交通手段を乗り継いで移動する際の移動ルートは、手元のスマートフォンで簡単に検索することができるようになった。しかし席の予約や運賃の支払いなどは、各事業者に対して個別に行わなければならない。

MaaSはこのような多岐に渡るサービスの仕組みを一つにまとめ、アプリで検索から予約、支払までを一度に行えるようにし、ユーザーの利便性を大幅に高めようとしているのである。

MaaSは社会のどんな問題を解決しようとしているのか

MaaSという概念が生まれた背景を理解するために、現代社会が抱える公共交通機関の問題をもう一度考えてみよう。近年、鉄道会社の経営危機や公共交通機関の路線廃止などのニュースを耳にする機会が多くある。

公共交通機関が減る話は聞くが、増える話はごく一部を除いてほとんど聞かないのではないだろうか。

これはまず都市部への人口の一極集中により地方に人がいなくなり、公共交通機関への需要が減少した事に起因する。それに加えマイカーが普及してきた事も大きく影響を与えている。どんどん自動車が安くなって誰にでも手に入るようになった。

人口は減少しマイカー保有者が増えたことで、バスをはじめとした公共交通は需要の総数が減る一方だ。しかしマイカー非所有者の交通手段を確保しなければならない。このような状況での現状維持は困難で、各地の鉄道路線は赤字が拡大し続けている。

マイカーは移動手段として見れば大変便利なものだが、一方で保有するコストが高いわりに利用率が低い、という問題がある。さらに本来であれば公共・商業施設をより広く整備したいところに広大な駐車スペースを用意しなければならず、渋滞・交通事故の問題もある。

人々がマイカーを使うようになると公共交通機関への需要はさらに減り、公共交通機関が減ると人々は不便な地方を離れ、都市部へ移っていく、という悪循環を生み出している。これは現代社会が抱える問題である。

さて、上記の問題をMaaSはどのように解決していくのか。

サービスカーとしての自動運転車導入など、データの活用によって最適なバス等の運用が実現すれば、交通手段が少ない地域に住む人々による駅や停留所と目的地の間を最適な移動が可能になる。MaaSは地方での交通弱者対策などの問題の解決に役立てようとする考え方なのである。

さらに環境問題への効果も考えられる。公共交通機関の利用が増加することで、家庭で自動車を持つ必要性がなくなり自家用車の保有台数が減る。その結果、都市部での交通渋滞、自動車による排気ガスの減少により、温室効果ガスの削減、大気汚染の抑制にもつながるだろう。またこれまで駐車場として使われてきた場所を公園にするなど、緑地化を進めていくことも可能である。

MaaSは技術によってこれらの問題を解決しようとしているのだ。

MaaSによって世界はどのように変わるのか

先に説明したような悪循環が生まれた理由を、さらにもう一歩踏み込んで考えてみると、それは人々が常に「便利さ」を追い求めてきた結果であると言える。

バスや電車などの公共交通機関ではなくマイカーが選ばれていたのは、それが移動手段として便利だからである。人々が便利さを追求する流れを止めることはできない。

MaaSはクラウドの技術を用いて、バス、電車、レンタカー、タクシー、飛行機、レンタサイクルなどのあらゆる交通手段をシームレスにつなげ、人々にそのつながりを意識させずに移動手段を提供しようとしている。

これらはすべて「公共交通機関にマイカーのような便利さを付加する」ことを目指しているとも言えるであろう。MaaSという捉え方によって、人々をもう一度公共交通機関の利用へ呼び戻し、それによって様々な社会問題の解決、地域社会の活性化を目指しているのだ。

海外でのMaaSの実例

日本ではまだ公共交通の時間情報の共有不足やキャッシュレスの普及度が低いなどの問題が多くMaaSを実現できていない。しかし海外ではMaaSによる交通手段の統一化が進められている。外国での事例をいくつか紹介する。

□フィンランド 「Whim(ウィム)」
フィンランドの首都ヘルシンキではMaaSサービスとしてWhimというアプリが提供されている。Whimはアプリひとつでスタートから目的地まで複数の経路が提案され、選んだ経路に含まれる移動方法をすべて予約することが可能となっている。2016年に公共交通のみで試験的に開始され、徐々に各段階を経て、レンタカーやタクシー企業、2018年にはカーシェアに加えてシェアサイクリングも追加された。

もともとフィンランドでは日本のSuicaやPASMOのような交通系ICカードがなく交通手続きの不便さが強かった。しかし交通手段の統一がされていなかった事で様々な種類の交通機関をまとめることが比較的容易だったというバックグラウンドもある。

□フィンランド 「Kyyti(クーティ)」
Kyyti はUBERに似たタクシーサービスである。ルートの検索と、すべての交通機関の支払いと発券が可能な専用アプリに、下記の機能を搭載している。

・デマンドレスポンシブトランスポート
障がいのある人や高齢者などの公共交通機関の利用が困難な人を対象として、一般ユーザーの承認制で乗り合いをする公共交通システム。
・モビリティデータ分析
AIの学習機能の活用により、データの解析を行って交通システムを最適化する。

このサービスの特徴は公共交通機関以外のレンタカーやフェリーといった移動手段だけではなく、様々なユーザーごとの状況に合わせて最適なルート計画を判断して提供し、チケット予約や決済までが一括でできる事である。

□スウェーデン 「UBIGO(ユビゴ)」
2013年にスウェーデン・ヨーテボリで生まれたUBIGO。現在では、首都ストックホルムを中心に利用ユーザー数を増やしている。ストックホルムでSL社が公共交通機関の地下鉄、バス、鉄道などを一括で運営しており、その全てに加えレンタカーやカーシェアリングの予約や決済までを、1つのアプリでできてしまう。また公共機関の乗り放題とレンタカー・カーシェアがセットになるプランも提供するなどサービスも充実しており、Whimに匹敵するMaaSとも言われている。

□ドイツ 「moovel(ムーベル)」
自動車大国のドイツ。国を代表する大手自動車メーカーであるダイムラーのベンチャーとして、MaaSサービスアプリの開発が10年以上前から始まっていた。そのダイムラー傘下の「moovel Group GmbH」が提供しているアプリがmoovelだ。移動手段の検索、予約、決済に加え、Apple PayやGoogle Pay、バーコード、QRコードなどのほぼ全ての非接触型決済サービスにも対応している。

またmoovelは、交通状況をリアルタイムで確認できる機能を備えている。ユーザーは渋滞や遅延などに巻き込まれず目的地に向かえる最適なルートを検索することが可能だ。全ての交通手段が1つのアプリにわかりやすくまとまっている。Moovelは現在世界25都市に進出し、2019年1月にはパリでもサービスを開始している。

□中国 「滴滴出行(ディディチューシン)」
中国国内のライドシェアを推し進めているのが滴滴出行(ディディチューシン)。提携しているタクシー会社をはじめ、個人が自家用車でタクシー業務を行う「合法白タク」の予約、配車、決済も可能となっている。

一般人でもタクシー業務ができてしまう事を不安に感じる人もいるだろう。だが、アメリカのUberと同じく、降車後にドライバーの運転を評価するシステムになっているため、事前にドライバーの評価を確認してから利用ができる。

アプリ内で現在地設定をすればタクシーがどこにいて、どの程度の時間で到着するかがすぐにわかるため、雨の日には屋外で今か今かと濡れながらタクシーを待つ必要もない。事前にアプリ上で予約した車種・ナンバー・タクシーの位置を確認できるので自分の乗るタクシーも迷うことなく見つけることができる。

アプリ内では移動距離ごとの運賃がしっかりと明記されているため、ぼったくりのような被害に遭うこともなく、運賃の決済もアプリに紐付けされた電子マネーで行えるなど、手軽さと便利さもあって利用者を増やしている。

実は既に「DiDi(ディーディー)」という名のアプリで日本への進出を果たしている。滴滴出行とソフトバンクが共同出資して立ち上げた「DiDiモビリティジャパン」は、2018年9月に大阪府内でサービスを開始した。決済方法に現金、クレジット、アプリ決済の3種類があり、この内アプリ決済は日本では「PayPay」が対応している。

中国で普及しているアリババ系のアリペイ(支付宝)とテンセント(騰訊)系のWeChat Payなどのスマホ決済を通じて支払いができることで、中国人観光客が日本でスマホ決済を通じて人民元で支払いができることも評価されている点だ。2019年4月からは東京でも本格的なサービスを開始している。

□インドネシア「GOJEK(ゴジェック)」
インドネシア発の配車アプリケーションであるGOJEK。その特徴は、車だけではなくバイクタクシーの手配もできる事だ。バイク大国インドネシアならではの、バイク社会にマッチさせたアプリケーションだ。首都ジャカルタは渋滞が世界一ひどいとも言われる。そのような状況下で混雑や渋滞を少しでも避けるためにバイクタクシーが利用されることが多い。GO-CARやGO-RIDEといった配車サービス以外にも下記の様なサービスがある。

・GO-FOOD
食べ物をデリバリーしてくれる
・GO-CLEAN
掃除代行サービスを依頼する
・GO-MASSAGE
マッサージ師を自宅まで呼ぶ
・GO-GLAM
メイクの技術を持つ美容師を自宅まで呼ぶ

インドネシアのインフラは日本と比べるとまだまだ全体的に整っているとはいいがたいが、国は経済成長の可能性をもち、それを支える若い世代の人口も多い。今後さらに成長を続けていくだろう。Go-jekは現在ベトナムへ進出、さらにフィリピンへの進出も検討している。

日本の抱える問題とMaaS

ここまで様々なMaaSの事例を紹介してきた。一つ思ったのが日本においてのMaaSは高齢者の運転の問題の解決にもつながるのではないかという事だ。年々高齢者の運転事故が大きく取り上げられることが増えるようになった。

地方都市では移動手段が少ない為、免許を返納する気持ちがあっても、日常生活に支障をきたしてしまうからと自分で車を運転するしかない高齢者がいることは事実だ。さらに2019年4月、都心である池袋で高齢者が運転する車が暴走し、幼い女の子と母親が死亡し、重軽傷者は10人以上にも上るというあまりにも痛ましい事故があった。このような悲惨な事故が二度と起こってはならない。

今後MaaSが整備され発展していくことで移動手段が確保され、地方の交通事情は「車がないと生活できない」から「車を手放しても生活できる」ものへと変わっていく。高齢者が運転免許証を返納してもMaaSがそれに代わり生活を支えられることで、「自由に移動できるから、無理に運転しなくて大丈夫」と免許の自主返納が促されるだろう。

この日本で目指すものは地方も都心も地域を問わずどこでも誰もが使うことができるMaaS。MaaSの環境の構築が進むことで、私たちの生活はより安心で安全なものになっていくだろう。

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