デジタル化の遅れを危惧した経済産業省等により必要性が唱えられ、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」というキーワードを含む話題を目にすることが多くなったが、その「DX」とはいったい何なのか。
経済産業省が発表している「DXを推進するためのガイドライン」によると、日本においてのDXは『企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。』とされる。
そもそもの「DX」は、2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授によって提唱された概念。その内容は『ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる』というものだ。「Digital Transformation」を直訳すると「デジタル変換」という言葉になるが、“変換”というより“変革”という言葉の方がしっくりくるようだ。なお、英語圏ではTransをXと略すことが多いため、Digital TransformationはDXと略されている。
既に私たちの生活に浸透しているものもたくさんあり、AIスピーカーやモノのインターネットであるIoT、AR、VR、スマホ決済などのキャッシュレス化により日々の暮らしがデジタル技術によって大きく変わっていることを実感しているのではないだろうか。
そこで、今回は企業でのDXの事例と導入のステップ、政府の推進ガイドラインについて紹介する。
Amazon
私たちが商品を購入するためには、外出し、店舗に探しに行くことは当たり前であった。しかしAmazonはそれを一変させたのである。通販サイト立ち上げ、巨大なECプラットフォームを構築したことで、どこにいても簡単に欲しいものを購入することができるようになった。「買い物に出かける」という行動に対して、デジタルを使った変革を起こしていたのだ。
Netflix
Netflixは創業当時、オンラインでのDVDレンタルサービスを取り扱っていた。その後通信技術の革新に伴い、自社のコアビジネスを、映画のDVDを会員の自宅に郵送するレンタルサービスからビデオ・オン・デマンド方式によるストリーミング配信サービスに移行した。自宅のテレビだけでなく外出先で携帯やPCからいつでも映画を見ることができるこのサービスは全世界でシェアを拡大させていった。
Instagram
数十年前までは、写真はフィルムカメラで撮影し、それを現像して楽しむものだった。しかし、デジタルカメラが登場したことによって、まさにデジタル技術を利用した撮影方法に変わっていった。デジタルカメラで撮影された写真はプリントするだけでなく、データとしてメールに添付して送受信ができる。こうした一連の写真撮影のデジタル化に留まらず、写真の在り方自体を変えたのがSNS、特にインスタグラムだ。写真はオンライン上に投稿し、共有することが今では当たり前になっている。これはまさしくデジタルオートメーションである。
日本交通
国内企業での導入例として、日本交通の事例がある。日本交通が独自で開発した日本交通タクシー配車というアプリをリニューアルし、主要都市で他社タクシー会社も利用可能としたJapanTaxi(2018年9月に名称を全国タクシー配車に変更)を配信をしている。また、タクシー内でタブレット端末から流れる動画広告を見かけるようになった。この変化におタクシー事業者の収益が増え、タブレット搭載率も増し、広告収益が増えるという好循環も生まれる。
電通アイソバーブログ(出典:https://medium.com/dentsuisobar/5steps-9db737ba760b )によるとDXには以下の5つのステップが必要とされている。
Step1:デジタル化
デジタル導入の初期であり、業務で使用していた様々なツールをデジタルに置き換えることで、データを蓄積していくことが可能になる。
Step2:効率化
Step1で蓄積されたデータを活用していく段階になる。現在、多くの日本企業はこの段階にあるとされている。データを部門ごとに活用し効率化していくことで、これまであった無駄な業務をなくし、効率的な業務が可能になる。人的・時間的コスのト削減や生産性の向上も期待できるだろう。
Step3:共通化
Step1,2で蓄積したデータを他部門でもデータを活用できるようにするための基盤を構築していく。「仮説を立てる→施策を実施する→データで検証する」このサイクルを回し、蓄積されたデータをさらに部門間での有効活用が可能になる。
例:Uberが配車サービスで蓄積したデータを応用してUber Eatsを展開しているケース
Step4:組織化
Step3で構築した基盤をもとにして、より効率的な運用を行なうための組織づくりを行なう。組織をしっかりと固めて業務を明確化することを目的とする。一部ではあるが、この段階に進んでいる先進的な企業もある。専任組織が設立され、積極的なデータの活用とそのデータに基づいた仮説作りが行なわれることもある。
Step5:最適化
蓄積されたデータからのインプットを元に事業の未来予測を行ない、事業全体に大きなイノベーションを起こしていく。データを中心にした、より精度の高い事業計画を立案することも可能となる。データなどのデジタル資産は企業運営の基盤となり、デジタルテクノロジーの活用で競争力が向上していく。まだこのステップに到達した企業は少なく、これからこの段階を目指して、企業はDXの導入を進めていくことになる。
これからの企業運営にはDXが重要になり、その結果が企業の未来を左右することになる。この考え方は国内の企業にも広まり、浸透しつつある。しかし前述したようにStep2:効率化の段階で止まっている企業が多いのが現状だ。
この現状に危機感を覚えた日本政府が、2018年12月、経済産業省から発表したのが冒頭にも出てきた「DXを推進するためのガイドライン」である。これは企業がDXを進めていくための指針を示したもので、仕組みや体制づくり、経営者が押さえておくべき事項がまとめられている。
DX推進ガイドラインは、「①DX推進のための経営のあり方、仕組み」と、「②DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築」の2つから構成されている。このガイドラインの注目すべき点は、経営トップの意思の重要性を訴えている部分である。DXを推進させるためには、経営者が現場をしっかりと理解し、連携する必要がある。よくある、現場にすべて任せきり、などでは失敗に終わってしまうだろう。このような失敗を防ぐために、ガイドラインはDXの実現の基盤であるITシステムの構築を進める上で、経営者が押さえるべき事項を明確に記載し、取締役会や株主が企業のDXに対しての取り組みをチェックする際にも活用できるものとなっている。
DXはデジタル技術を活用することで、従来のビジネスモデルを大きく変えていく。組織を強力にし、より効率的な経営を行うことにもつながっていくだろう。これからの変革の時代を生き抜くうえで、DXの導入は必要不可欠なものとなっていくだろう。