日本は遅れている?政府が推奨するクラウド化の方針とは

「クラウド・バイ・デフォルト原則」という言葉をご存知だろうか。近年広まりつつあるクラウドファーストの考えからさらに進んだ、政府の提唱するクラウド利用基本方針である。

2020.02.14 FRI

日本は遅れている?政府が推奨するクラウド化の方針とは

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「クラウド・バイ・デフォルト原則」とは


これは2018年6月に政府から発表された「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」の中にある方針のひとつだ。

近年、企業が情報システムの設計や移行に際してクラウドサービスの採用を第一に検討する、クラウドファーストの考えが広がりを見せているが、未だにクラウド化に抵抗があり導入が進んでいない一般企業も多々あるのが現状だ。そんな状況を打破するために提唱された。すなわちクラウド・バイ・デフォルト原則とは、政府の情報システムの構築・整備などを行う際には、クラウドサービスの利用を第1候補(デフォルト)として考えるとする、という方針である。

クラウド・バイ・デフォルト原則が打ち出された背景にある「Society5.0」


政府がクラウドの利用を第一候補とする原則が生まれた背景として、デジタル化された技術や情報を社会によりうまく融合させた社会「Society5.0」が提唱されたことが挙げられる。

■Society 5.0(ソサエティゴーテンゼロ)とは

2016年1月に閣議決定され、日本政府が策定した「第5期科学技術基本計画」の中で用いられている言葉だ。安倍晋三政権が掲げるアベノミクス第三の矢「成長戦略」においても、Society5.0の実現は重要なキーワードになっている。

人類が地球に誕生し、最初に築いた社会(ソサエティ)は、野生の動植物の狩猟や採集を生活の基盤とする「狩猟社会」だった。次に生まれたのが、経済を農耕によって成り立たせる「農耕社会」。
さらに発展していった社会には下記の様な呼び方がある。

狩猟社会…Society1.0
農耕社会…Society2.0
工業社会…Society3.0
情報社会…Society4.0(現代)

そして日本が目指す未来の姿が「超スマート社会」(第5期科学技術基本計画内に記載されている)であるSociety5.0、だ。現在のSociety 4.0では多くの情報が飛び交っているが、人はその中から必要な情報を探し出し、分析して活用することができていない。

それに対してSociety5.0ではIoTやAIなどの最新テクノロジーが人の代わりに情報を分析し、最適な提案をしてくれる。

このCMを見たことがある人もいるのではないだろうか。



消費者のニーズに合わせた最適な配送、食品ロスの軽減・農作業や交通手段の自動化など、少子高齢化や地域格差が進む日本が抱える社会問題をスマートに解決しているように感じるだろう。
Society 5.0はITに頼りきりになるのではなく、人が中心にある社会イノベーションだ。最新テクノロジーの活用により、格差なくニーズに対応したモノやサービスを提供することで、社会システム全体が最適化され、経済発展と社会的課題の解決を両立していける未来の日本のかたちだ。

しかし、現在の日本の行政分野において、Society 5.0の超スマート社会を目指すには必要不可欠なクラウド技術に対する取り組みは大きく遅れを取ってしまっている。諸外国と比べては言わずもがな、国内のクラウド化に力をいれている企業と比較してもその差は歴然だ。

これまでも、行政サービスの100%電子化を目指す政府の施策であるデジタルガバメントにおいて、多くの課題解決に役立つクラウド技術は重要視されていた。しかしセキュリティ面やリスクに対する懸念や知識不足からクラウド化はなかなか進められていなかった。


この状況を変えるべく、「クラウド・バイ・デフォルト原則」が発表されたのである。

クラウド・バイ・デフォルト原則の具体的な方針


行政機関が今後システム導入や移行を行う際、下図の内容で検討する流れになるとされる。




STEP1では運用管理の負担が少ないパブリック・クラウドのSaaSから検討を始め、より細かく専門的に管理したい場合には、IaaS、PaaSへと検討を進める流れになっている。STEP4まで検討し、どのタイプも導入まで至らないと判断された場合には、最終的にオンプレミス型の利用が検討されることとなる。 このように、各業務に最適なクラウドを導入するため、いくつもの段階に分けて検討を重ねるのがクラウド・バイ・デフォルト原則である。

クラウド・バイ・デフォルト原則が日本のクラウド化を加速させる


「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」内で指摘されているクラウドの5つメリットを紹介する。

1) 効率性の向上

クラウドサービスでは複数の利用者により1台のサーバやネットワーク機器を共有していることが一般的だ。その為、一利用者当たりの費用負担は軽減される。またSaaSの場合では基本機能があらかじめ提供されているため、導入時間を短縮することが可能となる。

2) セキュリティ水準の向上

多くのクラウドサービスは、基本機能として一定水準の情報セキュリティ機能を提供している。また、様々なクラウドサービスが存在する中で、その激しい競争環境下で新しい技術の積極的な採用を行い、規模の経済から効率的に情報セキュリティレベルを向上させることが期待される。

3) 技術革新対応力の向上

技術革新による新しい機能(AIやIoTなど)が随時追加される。そのため、最新技術を業務に活用することが可能になる。

4) 柔軟性の向上

リソースの追加や変更なども簡単にでき、数ヶ月の試行運用といった短期間のサービス利用にも適している。業務内容に変更があった場合も利用する機能の組み合わせを変更することで、柔軟に対応できる。

5) 可用性の向上

仮想化等の技術利活用により、24 時間 365 日の稼働を目的とした場合でも過剰な投資を行うことなく、低コストで運用ができる。日本に多い地震や水害などの大規模災害の発生時にも継続運用が可能となるなど、情報システム全体の可用性を向上させることができる。

クラウド・バイ・デフォルト原則を定めた「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」には具体的でわかりやすい検討手順が示されている。つまりこの原則は政府内だけでなく、一般企業でクラウドを導入する際の指針となりうるのだ。このような具体的な基準を設けることで日本のクラウド化はより促進されていくだろう。

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