クラウドの基礎知識(3) ‐ハイブリッドクラウドとマルチクラウドについて-

前回までに「クラウドとは」「クラウド導入のメリット」を取り上げてきた。最終回となる第3回はハイブリッドクラウドとマルチクラウドについて、それぞれの概要、違い、導入事例を紹介する。

2020.02.27 THU

クラウドの基礎知識(3) ‐ハイブリッドクラウドとマルチクラウドについて-

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ハイブリッドクラウドとは

オンプレミスの自社システムとプライベートクラウドならびに、パブリッククラウドを適宜組み合わせて利用することを「ハイブリッドクラウド」と呼んでいる。導入・利用する企業の環境や要件に合わせて柔軟な組み合わせが可能である点が大きな魅力である。機密情報はオンプレミス、その他はクラウドと使い分けたり、一度に全てをクラウド化することが難しく段階的に移行したりする場合にはハイブリッドクラウドの利用が適している。

マルチクラウドとは

複数の異なるクラウド事業者のクラウドサービスを利用することを「マルチクラウド」と呼んでいる。ハイブリッドクラウドと同様に導入・利用する企業の環境や要件に合わせて柔軟な組み合わせが可能である。各クラウドサービスにはそれぞれ特徴があり、提供している機能やコストに応じて最適な組み合わせを選べる。オンプレミスでなければ実現できない要件がなければ、マルチクラウド(またはクラウド)を利用する事が推奨される。

ハイブリッドクラウドとマルチクラウドの違い

ハイブリッドクラウドとマルチクライドの違いをオンプレミスも含めて以下の通り表にまとめた。

 オンプレミスハイブリッドクラウドマルチクラウド
(クラウドも含む)
初期費用×
サーバやソフトウェアライセンス、ネットワーク機器の購入等初期費用が高額である。数年後の使用料を想定して初期投資が必要となる。オンプレミス部分は初期投資が必要だが、クラウド部分は初期費用無料が一般的である。初期費用無料が一般的である。低コストでスタートでき、必要な時に必要なだけサーバ増減が可能なため、コストを最適化しやすい。
月額費用
保守運用費等の固定費の負担が必要で、使っていない場合も支払う。オンプレミス部分は固定費負担があるが、クラウド部分は使った分だけ支払う。使った分だけ支払う。
インフラ調達期間×
機器調達に、数週間から数ヶ月かかる。オンプレミス部分は機器調達期間がかかるが、クラウド部分はアカウント登録後すぐに利用できる。アカウント登録後すぐに利用できる。web上から、サーバ台数の増減やスペック変更等が行える。
カスタマイズ
自前で構築するため、要望に合わせて自由にカスタマイズ可能である。自由にカスタマイズしたい部分はオンプレミス、クラウドの利用で要件を満たせる部分はクラウドを利用する。IaaS型クラウドの場合、比較的自由度高くカスタマイズ可能である。
ネットワークセキュリティ
自社内で管理できるが、セキュリティ対策を自前で行う必要あり。オンプレミス部分は自社内で管理、クラウドのサーバ管理は高度な技術のある専門家が行う。サーバ管理は高度な技術のある専門家が行うため、クラウド内での安全性は担保される。(但し、クラウドとの接続部分のセキュリティ対策を考慮する必要あり)
障害対応×
自社で復旧作業を行う。場合によって現地へ駆けつける。オンプレミス部分は自社で復旧作業、クラウド部分はクラウド事業者が復旧作業を行う。クラウド事業者が復旧作業を行うため、web上で復旧を確認できる。
バックアップ×
オンプレミス部分は自社で仕組みを作る必要があるため、高い費用がかかる。オンプレミス部分は自社で仕組みを作る必要があるが、クラウド部分は、クラウドサービスを利用することでバックアップができる。クラウドサービスを利用することでバックアップできるため、容易にできる。
ストレージ拡張×
追加の機器調達に、数週間から数ヶ月かかる。また、ストレージ拡張するためにシステムの停止が必要な場合がある。オンプレミス部分は機器調達期間がかかるが、クラウド部分はクラウドサービスを利用することで容易に拡張ができる。クラウドサービスを利用することでストレージを拡張できるため、必要なタイミングで、短時間で容易にできる。
外部からのアクセス×
追加の機器調達が必要である。オンプレミス部分は追加の機器調達が必要だが、クラウド部分はクラウドサービスを利用することで容易に外部からアクセスができる環境を整えることができる。クラウドサービスを利用することで外部からアクセスができる環境(インターネット経由でアクセスができる等)を整えることができるため、容易にできる。
運用負担×
自社負担である。オンプレミス部分は自社負担、クラウド部分はクラウド事業者が行う。クラウド事業者が運用するため、自社負担が少ない。


ハイブリッドクラウドの導入事例

ハイブリッドクラウドの導入事例として、A 社の事例を紹介する。株式会社として海外でもトップクラスのA社は、既存顧客や潜在顧客とつながる手段として検索エンジンやSNS、Eメール、ウェブサイトを駆使した活動を行っている。そして、今後さらにその活動と顧客とのつながりを深めていきたいと考えていた。

A 社は、顧客により最適なサービスを提供するために下記を実現する必要があった。
・顧客との迅速かつ分かりやすいやり取り
・24時間365日利用が可能

上記の課題を実現するために、以下の解決策を講じた。
・DevOpsによる開発
・クラウドサービスへの移行

解決策を講じた結果、以下のような効果が得られている。

①イノベーションの加速
DevOpsとは、ソフトウェア開発手法の一つであり、開発手法やツールを組み合わせて開発者(Development)と運用者(Operations)が連携して協力し、従来に比べて柔軟かつ速いペースでシステムを開発することを指す。
このDevOpsとクラウドを利用することで、新機能の開発、実装にかかる期間が大幅に短縮された。クラウド機能の活用と高速化により顧客の要望に迅速に対応し、求められているサービスを提供できることになり、顧客満足度の向上につながっている。

②コストの削減
従来のクラウド・オンプレミスだけの運用からハイブリッドクラウドへに移行することによって、比較的低価格でセキュリティを確保できるようになった。

③ システム稼働能力の向上
これまで、新しいサービスを導入する際には、メンテナンスやソフトウェアの更新に伴って現行のサービスの停止・中断を行わなければならなかった。サービスは常時使用できることが望ましい中、これは大きな問題であった。
しかしシステムクラウドに移行することでこの時間のロスを減らすことができるようになった。障害の復旧もより迅速に対応できることで、顧客の信頼と安心を確保できるようになった。

マルチクラウドの導入事例

マルチクラウドの導入事例として、B社の事例を紹介する。B社は、世界有数のゲーム開発会社である。近年はユーザに向けたWebの活用に力を入れている。

今まで以上にゲームのクオリティを高め、ユーザにより楽しんでもらうためには、Webサービス利用時に発生する障害を防ぐことが重要だった。全世界100万人以上のユーザがプレイするゲームには、高い稼働率と様々な状況に対して柔軟な拡張を行える基盤の構築が求められる。

そのためには下記の希望を実現する必要があった。
・インフラの管理負荷の低減とコストの最適化
・多くのユーザーにより、アクセスの変動が起こりやすいWebサービスを安定して運営するために、高い拡張性を有する基盤への移行
・ゲームアカウントを幅広いフィールドで管理するため、高い信頼性のある基盤の構築

上記の課題の解決策として以下を講じた。
・複数のクラウドベンダーから提供される、いくつかのクラウドサービスを目的によって使い分けるマルチクラウドの導入
クラウドサービスCへの移行
・Cと同時に、異なるクラウドサービスDの採用 

解決策を講じた結果、以下のような効果が得られている。

①コストの削減
マルチクラウドは複数のサービスを併用するため、一つのサービスを利用するよりも費用面でも管理負担が増加してしまうという懸念がある。しかし、しっかりとした運用計画を立てて導入に踏み切ったことで、コストを削減し費用を確保できるようになった。

②高い拡張性
移行前は、不具合や障害の解消のため新たな機能を追加したり、既存機能の性能を向上させることに日数を要していたが、移行後はリアルタイムに対応できるようになった。多くのアクセスが発生した際にも柔軟に対応する事が可能となった。

③高い安定性
種類の異なる複数のクラウドサービスを導入しリスクを分散することで、一つのプロバイダーやサービスへの依存がなくなる。各クラウドサービスのいいとこ取りが可能になり、自社の要件に適合した信頼性の高い基盤が実現した。

全3回に渡ってクラウドの基礎について取り上げてきた。クラウドはすでに私たちの身近で使われおり、社会にとって必要不可欠な情報インフラになっている。現在は、新規で導入するシステムのをクラウドにする「クラウドファースト」の考えが主流ではあるが、今後、使用中の全てのシステムをクラウドに移行する「クラウドオンリー」の考えも発展していくだろう。ビジネスに大きなイノベーションをもたらすクラウド。最適なクラウドの導入に向けて、本記事を参考に慎重に選定していくことをおすすめしたい。

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